てるてるプログラムの実際

インテーク面接に参加し、カウンセリングやグループワークが進んでいくようすについて、架空のケースをもとにご説明します。

Aさん(盗撮)

①Aさんの起こした事件

女性アスリートの下半身の写真を撮ったことで捕まってしまった。

②Aさんの現状

専門職として働いている20代男性。妻と二人暮らしをしている。罰金刑になったが、職場には知られていない。事件のことで妻はショックを受けているが、夫婦関係は破綻していない。

③Aさんがプログラムを受けようと思った動機は

アスリートの下半身の写真を撮るのはよくないことだとわかっていたが、捕まるほどのこととは思わなかった。もう二度と同じことはしないと思うが、支えてくれている妻のためにもプログラムを受けたい。

④インテーク面接の様子

奥さんの車で面接会場までやってきたAさんは、反省した様子でしたが、担当者が優しく声をかけると笑顔を見せます。

学生時代にずっとスポーツをしていたAさんにとって、アスリートの女性は身近な存在でした。就職や結婚を機にスポーツからは遠ざかっていましたが、アスリートの女性は知らない人であっても部活の後輩のような気安い存在だったと話します。一度、魅力的な女性アスリートを見かけて無断で写真を撮ったことがあり、それ以来、ユニフォーム姿の女性アスリートの下半身を写真に撮ることにはまってしまいました。

事件当日は、妻には友人と遊びに行くと伝えていました。事前にネットでスポーツの大会の情報を得ていたAさんは、自宅から車で1時間以上かけて出掛けていきました。大会会場で盗撮を繰り返していたことから、巡回の警備員によって通報されました。

Aさんはこれまで性犯罪で捕まったこともなければ、他の犯罪で捕まったこともありません。普段は信号無視もしないほど真面目な性格です。インテークでは、そんなAさんがどうして性の問題行動を行ってしまったかについても、探求しました。

Aさんは中学の時に、部活のユニフォームを着ている女子生徒で性的に興奮する体験をしていました。それ以降、特定のアスリートのユニフォームを性的な対象として、動画を見るようになります。

一方で、それは内緒の趣味にとどまっており、盗撮をしようとは思ったことはありませんでした。大学で現在の妻と出会い、専門職として働き出した後は、忙しく毎日を送っていました。

妻とは1年前に結婚しましたが、妻の母が頻繁に家に来るようになりました。また、仕事ではリーダーの役割を担うようになって、急に責任を問われることが増えました。
これら1つ1つは小さなストレスなのですが、Aさん自身が気づかないうちに、これらのストレスがAさんを追い詰めていきます。

ある日、妻の母のことでAさんはとても嫌な思いをしました。その日、たまたま時間のあったAさんは、偶然に女性アスリートのユニフォームの写真を撮りました。それから、急に盗撮行為にはまってしまい、1ヶ月後に逮捕されます。
これまで内緒にして自分だけで楽しんでいた性的なファンタジーと、現実の被害者がAさんの中で一体化してしまったのです。

⑤プログラムの中でAさんが気づいたこと

Aさんはインテーク面接のあとで、てるてるプログラムに参加しました。グループで性の問題を話すということがよくわからなかったのですが、自分の起こした事件が、誰にも相談せずに一人起こしたものだったこともあり、みんなでの立ち直りということに興味も感じました。参加前は、インテーク面接に行く前のように緊張しましたが、参加してみて、自分よりも真面目そうな人や、以前の部活にいたような優しそうな人がいることに驚きました。

グループでは、認知の誤りや境界線の話、被害者のことなどを学びました。スタッフの話を聞いてわからないことや思ったことなどをメンバーで話し合いました。自分と同じようなことをいう人、話を聞いていると、「あれ?」と思うようなことを言う人、いろいろな人がいました。特に「境界線」の回では、自分自身のことを急に話したくなりました。

Aさんは一人っ子でしたが、Aさんの母がずっと過干渉気味でした。部屋の掃除、習い事の予定、携帯電話の内容も知りたがりました。Aさんはいい成績を取って、早く自立することで母からの過干渉をやり過ごしていました。でも、あれはAさん自身への「境界線の侵害」だったかもしれないと思い至りました。その話を他のメンバーに聞いてもらったところ、他のメンバーからも賛同が得られて、Aさんは話してよかったと思いました。

自分自身への洞察が深まると、自分のしたことを複数の視野で把握することができるようになってきました。被害者についても、自分一人では考えられなかった視点を取り入れることができるようになり、本当に申し訳ない思いを感じるようになりました。

初めは、「妻のためにもプログラムを受けておこう」という気持ちで受講しましたが、結果的に、Aさん自身が二度と性犯罪をしたくないと強く思うようになりました。

Aさんが今後気をつけていくことも次第に明らかになってきました。以前のAさんは小さなストレスに気づかずに性問題行動に依存していきました。これからは、小さなストレスに気づくこと、気づいて対処していくことがとても大事なこととわかりました。
自分ひとりでは気づかないこともあるので、グループやカウンセリングをしばらくは継続しようと考えています。

Bさん(痴漢)

①Bさんの起こした事件

電車内での痴漢行為の現行犯(京都府迷惑行為等防止条例違反)で逮捕されました。今回初めて捕まりましたが、実は10年ぐらい前から毎日のように電車内で痴漢行為をしていました。

②Bさんの現状

会社員の40代男性。妻と中学生と高校生の2人の子どもがいます。電車内の痴漢行為がSNSで告発されたため、Bさんの個人情報はネットに流れています。会社を自己都合退職し、妻とは離婚した。現在は実家に身を寄せています。

③Bさんがプログラムを受けようと思った動機は

Bさんの母が心配してプログラムを探してきました。今回のことで抑うつ状態になったBさんは、心療内科に通っており、その病院でカウンセリングも受けています。Bさんとしては、事件のことを振り返るのはきついが、一応、性暴力防止のためのプログラムも受けておいた方がいいかなと思っています。

④インテーク面接の様子

非常に暗い顔つきのBさんは、面接の間ほとんど表情が動かず、ずっと目を伏せていました。もともとは「普通の会社員」「普通に家族がいた」と話していますが、今回の事件で全部失ってしまいました。

病院からは体調を整える薬が出ていると言います。口数の多くないBさんは、ぽつりぽつりと問われたことに対して話していきます。

末っ子のBさんは、両親やきょうだいから可愛がられて育ちました。自営業の両親は忙しくてひとりで家にいることが多かったのですが、学校ではどちらかというと人気者でした。

高校までは楽しく過ごしていたのですが、2浪し、専門学校に入ってからは、人間関係や体の病気などで、Bさんの思うようにいかないことが増えていきました。一時はアルコールやタバコを乱用することや、風俗を頻繁に利用することがありました。

20代で結婚してからは、一転して真面目に仕事に取り組むようになります。仕事は数回転職していますが、人間関係で揉めることや、上司のパワハラにあうことが多かったそうです。

家庭では、強気の妻に頭が上がらず、いつも肩身が狭い思いをしていました。家ではネットゲームが拠り所でした。子どもたちとはいい関係を築けていると思っていました。

痴漢のことは「癒し」だと思っていたと語ります。痴漢と気づかれることはほとんどなく、女性の体温を感じて癒されていたというのです。性的な意味で触れていたわけではなかったのに、警察では性的な目的があったはずだと散々問い詰められました。

インテーク面接の中でBさんが一番熱くなったのは、SNSの被害を訴えた時でした。そのせいで今では外出することも怖くなっています。薬を飲まないと夜も眠れなくなってしまいました。Bさんにとっては、「したことよりも、その代償のほうが大きすぎる」と感じていました。

Bさんの母は、いつでもBさんの味方でした。今回のプログラムも、Bさんに代わって母が探し出してきたのです。Bさんも母の存在をありがたく思っていて、あまり乗り気はしないものの、プログラムへの参加を決めました。ほとんど家から出れないBさんにとって、病院の受診とカウンセリング、そしてプログラムへの出席が社会とつながる窓口になっていたのです。

⑤プログラムの中でBさんが気づいたこと

プログラムが始まると、Bさんはスタッフによく不満を言うようになりました。「あるメンバーが自分に対して冷たい」「自分以外のメンバーが仲良くしていて、自分がのけものにされている」というのです。スタッフの対応への不満が述べられることもありました。

グループは小さな社会です。そこで起こることは、これまで社会で経験してきたことでもあると考えられます。実はこれらはBさんがこれまでよく出会ってきた困難な場面と同じものでした。Bさんはこうした不満や不安に対処するスキルを身につける代わりに、アルコールや性の問題行動(痴漢行為)に依存することで対処してきたのです。

プログラムを進める中で、Bさんは自分の考えが偏っていたことに徐々に気づいていきます。それは、プログラムの内容から学ぶこともありましたが、一番の気づきは、一緒にいたメンバーの発言からでした。最初のうちは「メンバーの考えは間違っている」と思っていたのですが、次第に、「自分の考え方が変なのかも」と思うようになっていきました。

もし、これがスタッフからの指導という形なら、Bさんは反発していたかもしれません。同じ性問題行動に困っているメンバーの意見ならすんなりと受け入れられました。

Bさん自身が変わってくると、Bさんを取り巻く環境も少しずつ変化していきました。以前のBさんは、自分が何を苦手としていて、何に困っているのかをよくわかっていませんでした。これまでのBさんは、自分は人間関係が得意だと信じて無理を重ねていました。実はBさんは、複雑な人間関係がそんなに得意ではなく、人と関わらない仕事の方が合っていたのです。そういう仕事を見つけ、生活のスタイルを自分のペースに沿って変えていったところ、Bさんは非常に落ち着いていきました。

インテークで話していた「痴漢が癒し」という考えはなくなりましたが、Bさんがプログラムから学ぶことはまだありそうです。Bさんは同じプログラムを2回受けようと考えています。

Cさん(盗撮)

高校生の時に盗撮で捕まる、それ以降も盗撮がやめられない。

①Cさんの起こした事件

Cさんは高校生の時から、3回、盗撮で捕まっています。直近に捕まった事件で裁判を受けることになり、懲役8月、執行猶予3年の判決を受けました。

②Cさんの現状

研究職の30代男性。一人暮らしをしています。

③Cさんがプログラムを受けようと思った動機は

次に捕まったら刑務所に行くと言われています。Cさんにとっては幸いなことに、同じ会社での勤務を続けられていますが、今の研究職を辞めたくないので、刑務所に行くことはどうしても避けたいのです。性依存症の治療にグループ療法があると知り、藁にもすがる思いで申し込みました。

④インテーク面接の様子

使う言葉は難しいのですが、人当たりがとてもいい人です。会社でも上司や同僚から頼りにされるといいます。

盗撮のことは知り合いに話したことはなく、たくさんいる友人の誰一人にも話していません。高校生と大学生の時は家族に知られ、家族を巻き込んでしまいましたが、成人してからは、警察に捕まったときも家族にも内緒にしていました。

盗撮のことは、徹底的に周囲の人から秘密にしていますが、そのことが盗撮を止めることをますます難しくさせているようです。
仕事で嫌なことがあった、仕事をよく頑張った、腹がたつ、嬉しい、どんな理由でも盗撮を続けていきます。特に、イライラした時は、盗撮をする以外の解消方法がないと語ります。

インテーク面接でスタッフから、カメラアプリの削除や、過去に盗撮したデータの削除について話しましたが、強く抵抗をしました。(盗撮で捕まりたくないという気持ちは本当なのですが、盗撮を長く続けている人の場合、盗撮の画像やアプリ等を削除することをとても不安に思う人がいます。それだけ盗撮に依存しているのかもしれません。)

Cさんの場合は、インテークの後、プログラムに参加する前に、個人カウンセリングを行うことをスタッフから提案しました。Cさんもグループに参加することへの不安や不信感があったため、個人カウンセリングを希望していました。

⑤プログラムの中でCさんが気づいたこと

プログラムが始まると、Cさんは優等生的な立場で参加するようになりました。理解力もあり、言葉も上手に使えて、コミュニケーション力もあるため、メンバーもCさんを尊敬の眼差しで見ています。

実は、これこそがCさんの問題点でもあり、苦しさでもありました。表面を取り繕って、自分の弱い部分や嫌な部分を周囲に見せないようにしてしまい、溜まった怒りやイライラを盗撮行為として表すという、従来のパターンを繰り返していたのです。


プログラムの途中で、スタッフからCさんに声をかけることにしました。グループは、弱い部分やダメなところを出してもいい場所であることを伝えました。

Cさんにとっては、自分の弱さを見せることは、非常に勇気のいることでした。
相手が怒るかもしれない、自分に呆れて離れていくかもしれない、そんな恐怖と闘いながら、ついにCさんは自分の弱いところを正直にグループの中で語ることができました。
周囲の人にとっては「たいしたことがない」ことかもしれませんが、Cさんにとってはとても大きな出来事でした。

その後、Cさんは、仕事でいらいらすることがあったとき、盗撮をしたい気持ちが高まり、社内で盗撮できる場所を考えはじめてしまい、あぶないところだったと話すことができました。
その気持ちをグループのメンバーに受け止めてもらいつつ、そういう気持ちになったときにどう乗り切ればいいかについて正直に話し合うことができました。

 

その後のCさんは、コミュニケーションのパターンを変えることを実生活で実践しています。
自分の弱みを受け止めてもらう体験をしたCさんは、徐々に被害者の心情を理解しようとしはじめ、過去にしていた盗撮行為は一方的な性暴力であることに気づきました。
グループでのCさんの発言からは、自分が被害者に与えてしまった被害の大きさを痛感していることが伝わってくるようになりました。

Dさん(盗撮未遂)

①Dさんの起こした事件

駅のエスカレーターで盗撮しているところを、巡回していた私服警察官に見つかり、現行犯逮捕された。弁護人を依頼し、被害者と示談したことで起訴猶予となった。 

②Dさんの現状

大学教員をしている30代の男性。大学時代には彼女がいたが、社会人になった彼女から数年前に別れを告げられている。マンションで一人暮らしをしている。 

③Dさんがカウンセリングを受けようと思った動機は

盗撮をして捕まったことがショックだったことと、盗撮をした人は繰り返す傾向にあることを知った。性問題行動についての本や論文を調べたり、AIに尋ねたりした結果、盗撮を繰り返さないためにはグループやカウンセリングを受けることが効果的だと結論づけた。顔を出す仕事のため、自分の事件のことを知っている人が増えることを懸念し、個別カウンセリングに申し込んだ。

④インテーク面接の様子

最初は警戒した様子でしたが、担当者と話しているうちに、性依存について調べたことや、新しい知見について教えてくれます。とても知的好奇心のある人です。 

 

Dさんは研究は好きでしたが、なかなか大学教員の就職先が見つからず、経済的に不安な時期が長かったようです。結婚を考えていた彼女に振られたのも、将来への不安が理由だと考えています。大学教員になってからも、思っていたよりも雑務が多く、経済的な不安は無くなったものの、ストレスがたまることが多いと感じていました。 

 

盗撮は、彼女と別れたあたりからゲーム感覚で時々していました。ピンポンダッシュをするような、撮るまでがゴールのゲームをするという感じです。 

 

Dさんは元彼女と別れてからも元彼女のSNSをずっとチェックしていたのですが、先日、彼女が出産したことを知りました。結婚したことはSNSにあげていなかったので、突然彼女が出産したことを知ったのです。特にそれで生活や気持ちが荒れることはなく、平静でしたが、盗撮の頻度が上がっていたような気がすると話します。 

 

担当者からは、「感情(気持ち)」に注目することを今後のカウンセリングのテーマにしてみましょうと提案しました。元彼女への感情、元彼女の出産を知った時の気持ち、それらをこれからのカウンセリングで振り返ってみることにしました。 

⑤カウンセリングの中でDさんが気づいたこと

感情に注目すると担当者から言われた時に、Dさんはあまりピンときませんでした。本や論文で知ったことをもっと深めたい、効果的な方法を確かめたいと思っていたのに、肩透かしをくわされたように感じました。担当者にその理由について尋ねたところ、性問題行動が起こる原因に、感情の要因も含まれていることを聞きました。納得はいっていませんが、知的好奇心もあり、カウンセリングで探っていきました。 

 
そうすると、不思議なことに、元彼女への深い悲しみが急に溢れてきて止まらなくなったのです。人前で泣くことは、物心ついてからはほとんどなかったDさんですが、カウンセリングの中で、涙がポロポロと出てきたのです。それと同時に、元彼女への怒りも出てきました。Dさんは、普段はとても温厚な人です。誰かへの怒りを表すことはいけないことだと親から教えられてきて、それをずっと守っていました。逆にいうと、「怒り方」を教わってこなかったのです。 

 

健全な「怒り方」について、Dさんの日常をテーマに数回のカウンセリングで考えていきました。そうしていくうちに、Dさんは「感情」に注目することを、これまでの人生であまりしてこなかったことに気づきます。自分の感情に気づかないまま、元彼女への悲しみや怒りをどう処理していいかわからず、代わりに盗撮をしてしまっていたことにも気づきました。カウンセリングで元彼女への思いを吐き出すことができたことで、Dさんは自分の犯罪行為や被害者のことを冷静に振り返ることができました。